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似而非写実 - 2012.06.07 Thu

彩流社から出すアートスタディーズの20世紀年表が、なかなか、大変な作業になっている。文献を収録することを主張したのは彦坂尚嘉なのだが、実際の作業は、かなりどころか、非常に量が多いのである。

下記にご紹介するリアリズムをめぐる批評は、明治以降の日本人にとりつかれる写真のように描く描法をリアリズムと錯誤する病の一端を示している。そこで主張されている理想主義というものも、難しい問題で、理想主義を芸術とする価値観を示している。

今日では見られなくなった批評が、戦前には生きているので、その辺のおもしろさをレトロで味わってくださると良い。

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文芸界において写実なる語の流行を聞く。
しかし私たちはその意味を解釈するに苦しむ。芸術家はいかなる意味において写実と叫び写生と言うのか。もとより客観界・あるいは対象そのままを描写するのを写実主義と言えば語義は甚だ明瞭であるが、ひるがえって熟考すれば、対象そのままを描写するということは誠に空漠たる解答であることを知るべきである。

 写実主義とは欧州において一世を風靡するリアリズムの訳語であろう。それならばわが芸術家のある者はまさしくこの文字を誤解してエセ写実の邪道へ迷う者と言わざるを得ない。(尾崎)紅葉一派が小説壇においてエセ写実を主義とするが如く、わが美術界においてもまた一派のエセ写実が流行するのは最も憂うべき悪傾向である。
 
 いわゆる写実派は手段と目的とを混同する者である。写実の本義は思想を表現する為にできるだけ現実に近い材料を選択するのに他ならず、概論すれば18世紀のエセ古典主義に反対して勃興した自然派の変種に他ならない。


 すなわち主題は意味の表現にあって、これを遂行する手段として対象の実を取ろうとする所にある。しかるにわが芸術家のなす所を見るとただ単に外界の奴僕となってごたごたと、ほとんど何らの内容もない作品を出すのでなければ形式のみ借りて生命のない物品を構成するのみ。こんなことでどうして美術の真価を万世に発揮出来るであろうか。わたしは写実主義に頼って失敗する者よりも、むしろ理想主義を採って蹉跌する者を歓迎しよう。
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New HIKOSAKA 彦坂尚嘉

Author:New HIKOSAKA 彦坂尚嘉
彦坂 尚嘉(ひこさか なおよし、1946年6月26日 - )は、 美術家。立教大学大学院特任教授。日本建築学会会員。日本ラカン協会会員。気体分子ギャラリーを主催。

【著書/出版】『反覆/新興芸術の位相』(74年、田畑書店)、『死に対抗する力』(91年、ギャラリーKURANUKI)、『リノメランコリア』(94年、岡部版画工房)、共著『リベーションの現場』(05年、彰国社)、共著『メディアと精神科医』(05年、批評社)。共著編『皇居美術館空想』(08年9月朝日新聞社)。『彦坂尚嘉のエクリチュール』(08年、三和書籍)、共著『3・11万葉集 復活の塔』(2012年、彩流社)

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