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歴史認識のあやまり/ミメーシスをめぐって - 2011.08.30 Tue


山口俊郎という30代の画家を知っているのだが、
ツイッターで次の様なつぶやきを書いています。

yamaguchitoshio 山口俊郎
現代アートとリアリズム絵画では根本的に考え方が違う。なんとか現代アートを、学んで写実絵画に活かそうと試みたがどうやら無理ぽい。別の次元だ、時代が違うのだ。ならば開きなおって自分の写実を追求するしかない。突き抜けた先にもしかしたら現代の尻尾を捕まえられるかもしれない。
8月21日


私のアトリエで、この山口俊郎さんにアメリカの20世紀美術の画集を見せたのだが、何も質問も無く終わったしまった。根本の所で分からないらしい。

このツイッターで書いている「根本的に考え方が違う」というのは正しい認識なのだが、この根本的な違いがなんであるのかが分かっていないのだ。

彼が言う所の「リアリズム絵画」という意味では、その本質に良くも悪くも《ミメーシス》がある。《ミメーシス》というのは日本語で言えば「模倣」です。この《ミメーシス》が、あらゆる芸術の根底にあって、芸術表現を《ミメーシス》による現実の解釈と定義して論じたのが、エーリヒ・アウエルバッハの『ミメーシス』という著作で、1946年に出版されています。この1946年というのは、私の生まれた年でありまして、同時に最初の「世界最初の『汎用』コンピュータ」であるENIACが生まれています。

つまり実は、山口さんが言うリアリズムというのは、《ミメーシス》の問題であって、《ミメーシス》の新しい次元の論理形成が、同時にコンピューターの時代の飛躍的な始まりと連動しているのです。

つまり今日に至までの現代美術/現代アートの根底には、実はリアリズム=《ミメーシス》が潜在しているのです。にもかかわらず、山口俊郎さんには「別の次元だ、時代が違うのだ」という認識にたどり着く。

なぜなのだろうか?
それは山口俊郎さんが自分の経て来た美術教育に固着しているからです。
つまり問題は現代美術の難解性にあるのではなくて、一人の個人が、自分の体験に固着してしまうという現象に過ぎないように、私には思えます。自分の体験に固着してしまう限り、事実を事実として認識する事ができません。山口俊郎さんに美術を教えた先生の作家は、実は芸術的にはゴミに過ぎなかったのです。ゴミに美術を学んで、その先生よりも良い絵を描いたとは思いますが、しかしその先生を超えたという体験に固着して、同じようにゴミになってしまっている。かつて山口俊郎さんは《超次元》の絵を描いていたのですが、最近は《第8次元 信仰領域》の絵に転落しているのです。これもよくある事なのですが。

人間は、自分の体験の中を生きているのですが、その外に出て相対化しない限り、成長が止まってしまいます。しかし多くの人はそれが出来ないのです。何でもないことなのに、それが出来ない。山口俊郎さんの最近の絵が《第8次元 信仰領域》になってしまって、凡庸の海に飲み込まれてしまったのは、成長が止まったからです。多くの大人は成長が止まってしまいます。その凡庸な実例の一つになってしまったのです。

山口俊郎さんは、「開きなおって自分の写実を追求するしかない。突き抜けた先にもしかしたら現代の尻尾を捕まえられるかもしれない」と結論を書いていますが、この認識そのものが間違いで倒錯しているのです。

『青い鳥』という物語の中で、青い鳥をさがして旅をしたら、青い鳥は自分の家にいたという話がありますが、現代を生きている山口俊郎さんは、今の時点で「現代の尻尾」なのです。「開きなおって自分の写実を追求」などしなくても良いのです。すでにご本人自身が「現代の尻尾」であるし、生きている全ての人が「現代の尻尾」なのです。いまさら追求しなくても、事実は事実として「現代の尻尾」を生きているのです。山口俊郎さんがやろうとしている「開きなおって自分の写実を追求」というのは、この事実としての「現代の尻尾」を生きている現実からの逃避なのです。

アメリカというのは、現在でも世界最強の軍事大国であって、それを直視しない限り、現在を把握出来ません。同時に1945年以降の現代美術の歴史の中で、アメリカ美術はもっとも果敢に芸術であり、世界美術史を展開して来ています。この事実と向き合わない形で、美術の専門家とは言えません。山口俊郎さんに貴重な20世紀アメリカ美術展の大著のカタログ上下2册を見せても、何も質問も言えないし、さらには「自分には分からない」という事も言えない時には、山口俊郎はプロの美術家ではない事が明らかになっています。

プロの美術家であれば、何かを言わなければなりません。何も言わないでやり過ごせば良いと思っているというのは、普通の人です。

普通の人が描く絵というものと、プロの美術家が描く絵画と、2種類の作品が存在しているのです。

何も芸術について、あるいは美術史について語り得ないというのは、普通の人であって、専門家ではないという事です。

では山口俊郎さんは、普通の人でしょうか?
普通の人なら、大学を出たら就職して職業を生きなければなりません。
それもしていない。

つまり山口俊郎さんは、プロの美術家でもなければ、普通の人でもない。
では、なんなのか?

現実から逃避したモラトリアム人間、あるいは自己愛的プー太郎であるのでしょうか? 
私にはその純朴な性格と、極度の臆病さが見えてしまって、「良い人」ではありますが、現在の過酷な日本の滅亡過程を生きていくのには不向きな人のように見えてしまいます。


政治や経済を見れば分かりますが、3.11以降の日本は、本格的な崩壊過程に入っているのです。社会も経済も、政治も空洞化して行きます。この崩壊過程こそが「現代の尻尾」なのですが、山口俊郎さんはこの過酷な現実に怯えて、リスクを回避しようと逃げる。より安全で、怖くない場所に逃げる。まるで逃げられる場所があるかのように。

つまり現実を現実として直視する精神がないのです。事実を事実として直視しない所に、リアリズムは成立しないし、《ミメーシス》の基盤に立ち得ないのです。

結論です。でも各自の生き方はあるのです。各々が各々の責任で生きて、死ぬのが人生です。リスクをどれほど回避しても、人間の人生に安全な場所はなくて、人間は死ぬのです。山口俊郎さんが死ぬという事実は、確実な事実なのです。そして生きるというのは、死を覚悟して、死ぬ気になって、ハイリスクを選ぶ事なのです。

日本社会が崩壊していくとき、この中で、自分はどのように死ぬのか?
それを真剣に考えないと、普通の人にも、美術家にもなれなくて、根無し草の人生をさまよう事になります。

しかし「根無し草の人生をさまよい、無意味に死ぬ」という事こそが、全ての人間の人生の悲惨さです。
人生の悲惨な結末を引き受ける事において、人間は平等なのです。
つまりどのように生きようと良いのです。
山口俊郎さんは、居直って、自分自身になっていくべきであります。
それが何であって良いのです。
重要な事は自分からは逃げられないという事です。
死ぬまで山口俊郎は山口俊郎なのです。
それを引き受けなければなりません。
自分の死、そこに《ミメーシス》を成立させる基盤があります。

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● COMMENT ●

彦坂尚嘉様

お忙しい中ブログに取り上げていただきありがとうございます。
全く反論の余地がありません!

>プロの美術家であれば、何かを言わなければなりません。

僕自身、勉強が苦手というだけで美大に進もうと思ったアホな人間です。
何も言わなかった事はほんとうに恥ずべき事です。
本を見てわからなければ「何がなんだか分からない」と言えばよかっただけのこと。
何も言わずおとなしくしているのが一番、卑怯で何も学べないのかもしれません。
反省いたします。
エーリヒ・アウエルバッハの『ミメーシス』も買って読みます。

>現実から逃避したモラトリアム人間、あるいは自己愛的プー太郎であるのでしょうか? 
>私にはその純朴な性格と、極度の臆病さが見えてしまって、「良い人」ではありますが、
>現在の過酷な日本の滅亡過程を生きていくのには不向きな人のように見えてしまいます。

その通りです。僕は臆病者です。しかし良い人で生きる事ということもつらい事です。
そんな僕がプロの絵描きを目指すというのですから、そうとう頑張らねばなりません。
甘えを捨てて現実に立ち向かわなければなりません。

>しかし「根無し草の人生をさまよい、無意味に死ぬ」という事こそが、全ての人間の人生の悲惨さです。
>人生の悲惨な結末を引き受ける事において、人間は平等なのです。
>つまりどのように生きようと良いのです。
>山口俊郎さんは、居直って、自分自身になっていくべきであります。
>それが何であって良いのです。
>重要な事は自分からは逃げられないという事です。
>死ぬまで山口俊郎は山口俊郎なのです。
>それを引き受けなければなりません。
>自分の死、そこに《ミメーシス》を成立させる基盤があります。

自分からは逃げられない。そうです、今まで僕は山口俊郎になる事から逃げていました。
先々月、大学時代の恩師が亡くなりました。今際の時に先生は、生きる事の意味を問えと言われました。
僕にとって生きる事の意味とはプロの絵描きになることです。
しかし、そのことからずっと逃げ出してきたのでは、救いようがありません。
自分の体験に固着してしまうことに関してもどうせなら20代のうちにとことんやりきってしまえばよかったのです。そうすれば30代になってあっさりと捨てられたのかもしれません。
今、僕が自分の写実を追求するという結論に至ったのもやりきってなかったからというのもあります。
別にやらなくてもいいよと言われるでしょうけど、、、
また写実絵画というものはやればやるほど8流になるのではないかと感じていました。
僕は本当に普通の人間であります。普通以下です。芸術的才能もないと思っています。
そんな人間がどこまでできるのか、挑戦であります。

>山口俊郎さんは、居直って、自分自身になっていくべきであります。
>それが何であって良いのです。
心にもう一度書き留めておきます。


プロは甘くないぞ!プロになったら批判もされるし陰口も叩かれるぞ、大変だぞ、それでもやるなら頑張れ!と僕には読み取れました。
しかし彦坂さんにこれだけ書かれたら、もう怖いものなんてありません!吹っ切れました。
叱咤激励とはまさにこのこと。
今後も読書会など出来るだけ顔を出して、少しでも成長した顔を見せれるように精進いたします。
こんな僕の為にわざわざ誌面を割いていただき恐縮であります。
ありがとうございました。今後ともよろしくおねがいいたします。

山口俊郎


尚、そんな山口俊郎の個展がもうじきです。
興味のある方は是非!
[個展情報] 
2011年9月6日(火)~11日(日) 
広島県広島市中区幟町6-21 2F
NSA noborimachi space of art

[関連企画]
place and picture
http://p-picture.org/

死ぬ気でプロの美術家になろう

山口俊郎様

コメント欄への書き込みありがとうございます。

> プロは甘くないぞ!プロになったら批判もされるし陰口も叩かれるぞ、大変だぞ、それでもやるなら頑張れ!と僕には読み取れました。
> しかし彦坂さんにこれだけ書かれたら、もう怖いものなんてありません!吹っ切れました。
> 叱咤激励とはまさにこのこと。
> 今後も読書会など出来るだけ顔を出して、少しでも成長した顔を見せれるように精進いたします。
> こんな僕の為にわざわざ誌面を割いていただき恐縮であります。
> ありがとうございました。今後ともよろしくおねがいいたします。

まさに、叱咤激励でした。
清水の舞台から飛び降りる気で、現代アートの中にジャンプなさる事です。
応援しています。

> 尚、そんな山口俊郎の個展がもうじきです。
> 2011年9月6日(火)~11日(日) 
> 広島県広島市中区幟町6-21 2F
> NSA noborimachi space of art

なかなか面白い企画ですね。
頑張ってください。

色々あると思いますが、とにかく発表をし、
さらには、いろいろと公募展にも挑んでください。
アトリエにも、また遊びに来てください。

彦坂尚嘉


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New HIKOSAKA 彦坂尚嘉

Author:New HIKOSAKA 彦坂尚嘉
彦坂 尚嘉(ひこさか なおよし、1946年6月26日 - )は、 美術家。立教大学大学院特任教授。日本建築学会会員。日本ラカン協会会員。気体分子ギャラリーを主催。

【著書/出版】『反覆/新興芸術の位相』(74年、田畑書店)、『死に対抗する力』(91年、ギャラリーKURANUKI)、『リノメランコリア』(94年、岡部版画工房)、共著『リベーションの現場』(05年、彰国社)、共著『メディアと精神科医』(05年、批評社)。共著編『皇居美術館空想』(08年9月朝日新聞社)。『彦坂尚嘉のエクリチュール』(08年、三和書籍)、共著『3・11万葉集 復活の塔』(2012年、彩流社)

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